あの日、せめてお人好しであろうとした僕らに

僕の話を見ても何ひとつとして得るものは無いけど、自分だけじゃないんだってほんのちょこっとだけホッとして貰えたなら。。。

僕の好きな小説、森見登美彦さんの恋文の技術で、失恋男子小学生を励ましたへっぽこ男子大学生守田くんの言葉の受け入れです。


さて本題。


大昔に好きだった人が自己啓発セミナーらしきものをfacebookで紹介していることに気づいたのは2週間くらい前の話だった。

「ホントウの自分に気づく!○○先生の言葉に感動しました。これからは周りの人全てに感謝しながら生きていきます!!」

半年ぶりくらいに何の気なしに覗いたFacebook。なんだこれは??安っぽいその子のセリフと共に紹介されてた40代くらいの女性のプロフには、ギャバン顔負けの宇宙なんたらという肩書きと、ふわふわした抽象的でかつ宇宙が全く関係の無い精神論が書かれていていた。

1に曼荼羅、2に曼荼羅、3、4が無くて5に曼荼羅。。。ありがたい先生の紹介のあとは曼荼羅色塗りを連日推すその子のページ。常時20~50を超えるいいね、すっげぇなぁ曼荼羅組織力。いいねが曼荼羅してる!曼荼羅ー!で、曼荼羅ってなんなんだろ?理解したくないものは脳が受け付けない。僕は何一つ理解出来ないまま、その日はスマホをテーブルの上に置いた。曼荼羅ー!

詐欺の食い物にされなければよいが。。。気になってはいたものの、口を挟む義理も義務も未練もないし、そもそも言っても聞き入れてくれるだけの信頼関係なんぞないし、できることは何もなし。大切にしたい自分の周りに振りかからなければそれでいいや。許しておくれ曼荼羅。許された!

すっかり心から曼荼羅が消えて迎えた師走。みんなどうしてっかなー?忙しくしてっかなーと覗いたFacebookには、ナナメ45度で海をバックに映る色男風フツメンと「フツメンのおかげでホントウの自分に気づきました!ありがとうございます!これからは周りの人全てに感謝しながら生きていきます!!」と曼荼羅してるその子のありがたい言葉が映し出されていた。見つけたホントウの自分とやらは2週間で見失えるもんなの??曼荼羅ー!

世はインターネッツ全盛期。擦れば出てくるフツメンのセミナーコース。半年間複数回受講でコミコミうん10万。わ〜すごい。こんなけ払って複数回受けてもホントウの自分とやらは毎回分かった気になれるだけってことなんだねー!曼荼羅マンモスー!

相変わらず20~50はつく曼荼羅してるいいねの数々。わー組織ってホントすごい。こんなけいいねはつくのに、ランチでも食べながらちょっと心の整理に付き合ってもらう友人はおらんもんか?ちょっとそれは。。。

、、、彼女の不幸を餌に僕は自分を満たしたいだけではなかろうか??これ以上見ても何も得るものはないただ悲しいだけなんだろうなっと思い心の自衛のためにその日僕はFacebookを退会した。

そして、そう言えばぼくが関東で働いていた20代の頃、マルチ商法にハマっていた級友がおったなーと思い出していた。

⚫昔に戻る
彼は声優になりたいという夢を持っていて、学校を中退後、上京、某大手の声優学校に入学していた。

級友とは言っても彼とは学科も違ったし、特別仲のいい友人という訳ではなかった。仲のいい友人が共通してたこと、またお互いにカラオケが好きだと言うこともあり、テスト明けのカラオケルームに遊びに行った際、隣の部屋を覗いたら知ってる顔がいる!じゃぁ、合流!そんなノリで遊ぶ、その程度の仲だった。

知り合いに産毛が生えた程度の仲ということもあり、彼が中退したと気づいたのは、彼が声優学校に入学しその後人知れず失踪したというよくありがちな話を聞いてからだった。呆れれつつも心配しながら話す友人Aの顔を今でも思い出す。友人Aは産毛な僕とは違い、彼と剛毛な友人関係だった。

時は流れ僕が上京して働きだし2年か3年が経ったころだろうか?仕事の不平不満を言い合いつつもまぁなんだかんだで元気にやっとるよってゲラゲラ笑い合うだけの飲み会を僕ら上京組はやっていた。失踪した彼がひょっこり現れたのはそんなゲラるだけの飲み会の場だった。

失踪した彼を責めるでも虐めるでもなく、なんなーん?心配かけてー!バッカじゃないと?ーって笑い話に変え出した僕らに彼はじぶんの身の上話を展開した。マルチ商法に入会し、声優学校は退学。あー。厳しいノルマにヒィヒィ言ってる毎日だけど頑張れば上に行けると言われてる。やりがいを感じるよ!と目を輝かせてる彼を見て僕らは何も言えずにいた。年相応の最低限な道徳しかその場に持ち合わせてなかった僕らにはそれでも彼は何とか元気に生きている ただその現実を受け止めることしか出来なかったのだ。

その後、彼とは飲み会の場でのみ会っていた。学生時代にも特別仲が良いわけでもなかったので、こちらから連絡を取るわけでもないし、彼自体からも連絡はなかった

そんな産毛な関係が再開し2年か3年が経った頃だろうか?初めて彼の方から僕の元へとメールが届いた。

「1万貸してくれないか?」

僕自身、借金が嫌いでな人で内心えー、これ人間関係崩れる元やん!と思うものの、断っても食らいついて来られるのが目に見えてるし面倒だし、返ってこないなら来ないで、1万で手切れ金になるならそれはそれで安いかもしれないと思い、彼に貸すことになった。彼と1対1で会う唯一のシーンだったことは言うまでもない。

彼のいない飲み会で彼の金銭面のだらし無さを察することになる。友人Aは、彼と学生時代から仲の良かったこともあり既に桁が違う金額を貸しているとの事だった。友人Aは口は悪いけど飲み会前のパチンコで勝った日は僕らよりも多めに出してくれるような気持ちの良い人だった。

友人A「えっあいつ、アザゼルからも借りたん??」

僕「貸したと言うても1万なんやけどね。返ってくるとは思ってもないし期待してないけど。」

友人A「そっか。。。ふーん。」

貸した分だけじゃないだろうな。お前のことやけ、他の融資もしてるんやろ?と友人Aに本当は尋ねたかった。僕にまで金の無心をしていることを知って明らかにトーンが低くなった彼の声を聞いて僕はあえて聞かないことにした。

程なくして彼は再度失踪し僕らの前から姿を消してしまった。

失踪後も定期的に続いた飲み会で、彼、何してるんだろうね?ってお人好しな僕らは彼の心配を肴に酒を飲んでいた。

僕ら友人Aを含む仲良しグループはタイミングが合えば帰省時も近況報告会をやっていた。彼が2度目の失踪をしてから1年経った頃だろうか?帰省前の飲み会であの人は今?のノリで試しに彼に電話してみよーぜってなった。無理やろーと言いながら掛けた電話にリアクションがあり僕らは久々に彼とのコンタクトをとることになった。

なんしよーと?僕らは相変わらずだった。呑気なお人好したちであることを続けた。

彼「色々あったけど地元に戻った。みんなには悪いと思っている。」

なーん?そんなん気にしとると?いいけ、ウチら今度帰省するから久しぶりに会おうぜ。

無言の満場一致。呑気なお人好したちから始まった会話は呑気なお人好しのままで終わった。終わらせることにしたのだ。

帰郷後の呑み会の場に約束通り彼は現れた。

そして大方の予想に反して彼は借りた金をみんなに返したのだ。申し訳ないという一言を添えて。

やっぱり僕らはお人好したちだった。良いよ無事でいればと言い、彼がその後、どのように過ごしたのか?を聞くことにした。そして聞き出してすぐ彼の話がどこまでが本当でどこからか嘘なのか?検討のつかないものであることに気づいた。

彼の話によると、マルチ商法で食い物にされて生活が完全に成り立たなくなり、マルチを脱退し逃げるように実家のある故郷へと戻ったのだという。

・・・あーなるほどね。帰るところがあって良かった良かったねー。

「実家に戻ると母親は再婚してたよ。再婚相手は火葬場の経営者、朝早くて大変だが今はそこで働かせてもらっているよ。」

・・・えーそうなん。いいタイミングで戻れてよかったね。

「火葬場って儲かるんやね。再婚相手のおとうさん年収1000万だもん。認められたら後継者になれる。こんな逆転人生あるんやね。」

・・・ふーん。凄いね。で、この場でその視点での報告いる??

「火葬場やべーよ。殺人事件起きても燃やせばバレんと思うもん。」

・、ブン!

おそらく嘘。嘘嘘嘘、思いやりの欠けらも無いただ取り繕うためだけの嘘。嘘が膨らみ膨らみ膨らみ続けて、冗談にしては物騒すぎる切り口になった頃、テキトーに相づちをうっていた友人Aはお人好しでいることにサヨナラを告げ、彼を力任せにぶん殴った。


こればかりはね。こうこられたら止める気にもならないよ。他の友人達も止めもしないし何も言わなかった。僕らはお人好しでいることにギブアップしたのだった。敗戦処理。彼は実質僕らの中で死んだのだ。

敗戦処理のはずなのに友人Aはスッキリした顔をしていた。多分初めから1発で手打ちにすると決め打ちしてたんではなかろうか?周りの僕らに気を使って。
じゃあ帰ろうか、また今度な。あっさりと僕らは敗戦処理のマウンドを去ることにした。

こいつ(友人A)、体力仕事をしてるから、もしかしたら彼、骨が折れてるかもしれんなー。まぁ転んだと嘘ついて実在するかわからん義理のお父さんに医療費は出して貰えるだろうしまぁいいか。

そんな薄情の極みみたいな事を思いつつ僕は毛布にくるまりその日は眠りについた。

その後、彼がどうなったか?僕らは誰一人として知らないし、口にするものもいない。負けた話なんて誰もしたくないからね。

■今
火葬場なんて限られてるんで擦ればいくらでもあの日の彼の話が嘘が本当かなのかはっきりとするとは思うけど、思い出した今も調べる気にはならない。彼を死体蹴りする気もないし、そもそも調べれば1番傷つくことになるのは僕自身だ。何が嬉しくて自分に死体蹴りをしなくてはならないのだ。

今回のあの子の話もきっと彼と同じ話なのだろう。中途半端なお人好しは、自分の大切なものまで傷つけるとこになる。

人の悩みを聞いてるお坊さんたちだって常に悩みを解決出来てる訳では無い。そんな言い訳を言い聞かせながら、ぼくは今日も一日仕事に励む。

おしまい。